海の故郷 南原充士 路地裏に響く物売りの声のように 浅い眠りを揺り動かそうとするもの ようやく一行の日記にと書きとどめおく日々 くりかえし見る夢が人の記憶を不確かにする 今では思い出さえ贋の履歴書のようだ ほんとうに少しでも家具のようなものがなかったなら 人は自分をつなぎとめておくことができなかっただろう わたしは時たまにほんの一瞬目を閉じてみる ふと波立つ海の故郷が見えてくるように錯覚したいためにのみ