最後の車両

最後の車両

三井喬子

扉が開く
少しして閉まる

二つの出来事の間には
差し挟まれたモノはなく
肌触りと 匂いと 感情だけが移動した

嫌がるモノを逆さに吊るし
扉があいたら放り出してやろうと構えているが
閉じた隙間は 広がらず震えず壊れない
排出口のトジルという意志の固さよ

わたしは これから何処へ行くのだろうか
まとわりついて 蹴飛ばされて
猫のようにうずくまる
リセイは相変わらず勢いが良いが
それは 全ての出来事を説明するものではない
全ての未来を予測するものではない

あの白いホームに降り立つべきだったのか
押されて
素早く
電車を見捨てるべきだったのだろうか
ゆっくり通過する駅名標
白い 無人の プラット・ホーム