夜の海

夜の海

一瀉千里

表面張力で 分断された世界は
特に 夜になると
どちらが上か下か 見分けがつかなくなる
夜の暗い海に ひとりで沈むにも
ただ だまって沈んでしまうのは
おもしろくない

たとえば 大声でわめきながら沈むとか
もしくは
盛大に 花火を上げながら沈むとか
そうすると せめて大勢の人が寄り集まってきて
自分が沈んでいくサマを
見届けてくれる

人は ある一定の時期が来ると
いやが応にも
沈まなくてはならないから
それならば 人魚のように美しく
プリマドンナのように華麗に
自己演出をしてみるのも 許される

テトラポットから 注意事項が聞こえてくる
かすかに かすかに
聞こえてくる
その声が 私をさして言ってくれるなら
もう少しの間 
海の上で頑張れるかもしれない

越前クラゲが 巨大になって
海岸ベリを 意味なく浮遊しても
あれは食べれるんだよと 誰かがささやく
人々の食する口へ
本望という願いを抱いて
嬉々として食べられる日が やがて訪れるだろう