将棋のソネット 桐田真輔 鋼鉄の舟のかたちの布陣を抜け ひとり前線に急ぐ銀の鎧の若武者 誰もが捕虜となれば寝返る 死ぬ者のない消耗戦のはじまりだ 荒涼とした原野の果て はるかに前線を遠望すれば 居並ぶ兵の槍襖の間から 優美な美濃囲いの陣容がのぞく 忽然と躍りあがる騎馬武者を 兵が射止める間隙をぬって 滑空する龍騎兵の蜥蜴に似た黒い影 混迷する敵陣に紅蓮の旗は翻り 右翼から瓦解する城塞深く 王はまだ穴熊のように身を潜めている