Death・Card

Death・Card

高田昭子

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静かな血の本流が波打つあたりは
耳をあてると とくとくとあたたかい音がする
そこだけにあるやすらかな時間に埋もれて
つかの間 深い罪にいだかれて眠る

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透きとおった背骨のように
からだのなかをしずかに貫いて
いのちを支えつづけているもの
やがてすべてが透きとおるのだろう

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その魂の純粋培養室の
入り口のキーは誰にも渡されたことはない
孤独の蘚の増殖 繁茂する沈黙の樹々
最後に残されるものは一粒の玻璃の種子

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偽りの優しさはやがて刃物になる
激しさは震えながら涙をながしている
心にぶれてゆく言葉
整えられたものはいつでも遅れて届けられる

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アポロンの馬車を追いつづけて
向日葵は失明する
決して樹にはなれない
育ちすぎた花茎

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冬の真昼の窓辺をキジバトが飛んでゆく
翼の蝶番のきしむ音
一筋の傷に似ている鳥の空路
凍てつく手のひらに光の梯子は音もなく降りてくる

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水子は屈葬のかたちのまま
天の海で母を待ち続けています
母はそこへ辿りつくことはできません
天の道はここからわかれています。

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書きながら失ってゆく
あるいは失うものとしての言葉
おびただしい言葉を交わしたとしても
一度きりの死の抱擁を超えることはできない。

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言葉の積み木遊びに熱中している 
一人は正確に
もう一人は壊すつもりでやっているから
それは死ぬほど辛い遊びになる。

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この眠りは深すぎる
夢があまりにもあまやかだ
目覚めの扉がなかなか開かない
出口のキーは透きとおっている。

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赫い西空がまたたくまに沈むと
闇のなかで世界は落下する
たわむ天井 きしむベッド
音もなく微細なものたちが降ってくる