第四十五回目 丁当(ティンダン)の「女詩人」


女詩人

      丁当(ティンダン)


あなたの詩を読んで
あなたの姿を想像する
あなたのスカートの色を
一心に当てようとする
今日も明日もあさっても
新緑の朝には
私はあなたと
日の出るのを待っている
あなたと食事をしたり 人類を愛したり あちこち歩いたり
白居易を読んだり
ヴァレリーの下手な詩篇を読んだりする
すべての夕方を
あなたは詩をかくことに使い
顔色はわるく 高く低く詩を読みあげる
窓辺の花瓶には造花のバラがさしてある
私は坐ったり立ったり横になったり
タバコを吸ったり 酒をひとくち飲んだり
気持はすっかりあなたの方に行ってしまい
あなたの詩を枕にして
幸福な眠りに入ってしまう
けれど絶えてあなたを夢にみない
あなたの姿を知らないから

    中国現代詩集『億万のかがやく太陽』〔書肆山田)より


○ちょっとウィットのきいた女性詩人讃歌。詩を通して知ったさる女性詩人に思いこがれている。とはいうもののこの憧れの表現には、どこかおどけたような調子があって、冗談か本当のことかわからないところが、煙にまかれたようで面白いという作品だ。作者は前回とりあげた干堅の「友あり遠方より来る」という詩に遠来の友として登場した人。背が高くて色白で、種馬のようだ、なんて書かれてしまった人だ。「丁当(ティンダン) きみの名まえのひびきはいいね」なんて親しげに呼びかけている一行もあった。
 詩集の解説によると作者は1962年生まれとあるから、干堅よりさらに若い世代ということになる。ところで、前回と今回の詩が収録されているアンソロジー詩集『億万のかがやく太陽』(一九八八年刊)には、43人の現代中国の詩人たちの作品が1〜2編づつ、文革世代、それ以降の世代、文革期の先行世代の詩人達、という三部構成で収録されている。その本で、お酒のでてくる詩を探していて、偶然みつけた二作品が、ちょっと不思議な関連(作者同士が友人らしい)で結びついているのを知ったのは、この二編の詩を紹介しようと決めて、打ち込み作業をはじめた後のことだった。ともにちらりとお酒を飲む場面がでてくる詩を書いているところも面白い。二作品をあわせよむと、サルトルとか、白居易とか、ヴァレリーといった名前がでてきて、文革以降の世代の詩人達(今やさすがに若手詩人とは呼ばれていないだろうが)の当時(八〇年代半ばころか)の関心や読書傾向がうかがえて興味深いところもある。ちなみに中国現代詩集『億万のかがやく太陽』の翻訳者は、財部鳥子さんと、ムーグァンジュイ氏。




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