第二十一回目 ヘッセの「うたげの後」
うたげの後
ヘルマン・ヘッセ
食卓からブドウ酒がしたたり
ロウソクはみなひときわ悲しげにゆらぐ。
またうたげは終わった。
わたしはまたひとりぼっちだ。
静かになったへやべやの
あかりを、私は悲しく一つ一つ消して行く。
庭の中の風だけが憂わしげに
黒い木立ちと語っている。
ああ、疲れた目を閉じるという
この慰めがなかったら!
いつかまた目ざめようという
願いを、私はもう感じない。
高橋健二訳『ヘッセ詩集』(河出書房刊)より
○一人住まいの家に客を招いてひらいた宴、今でいうホームパーティという感じだろうか。客たちは皆帰ってしまい、ひとり残された家の主が部屋の明かりを消していく。む、部屋部屋とあるから、これはかなり大きな家で、客も大勢きたんだろうか。それにしても「淋しい」と思うのでなく悲しいと思うのはなぜだろう。木々もまた「憂わしげ」にざわめいているという。目を閉じて眠るのが一番の慰めだというのだから、かなり厭世的な思いを綴った詩だ。ヘッセは、若い頃自殺未遂をくりかえしたこともあり、自分の中の強い厭世観と戦いながら一生を終えた詩人。お酒や宴も愛したかもしれないが、内面ではこうした故しれぬ悲傷の感覚をいつも抱えていたのかもしれない。引用したのは、もうカバーもなくしてしまった今はなき河出書房のポケット版「世界の詩人シリーズ」の一冊から。きれいなカラー写真やシャガールの絵みたいな佐野洋子さんのイラストが沢山はいっている。中学生の頃に愛読した本だ。まさかお酒のでてくる詩を探してこういう本を読み返すことになるとは思わなかった。
●[back]●[next]