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果てしなき進撃 --- この地にて



果てしなき進撃

          --Sに


君はジョーカーで
おまけに
逆立ちする男だった
親愛なるドンのように
突進すべき風車がないので
酒場のシャンデリアに突進した
歌うべき軍歌もなく
越えるべき月の砂漠もなかったので
ばななの木に登っては
失墜を繰り返した
騒々しくも
「果てしなき進撃」とうそぶきながら
君は純粋さを愛し
ヘルダーリンに
涙する男だったから
夜毎の低空飛行にいそしむには
すこしだけ
高みに昇りすぎたのだ



  初出「断簡風信」33号(1990年)

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  この地にて


  断じて死のためではなく
  生きてゆくためにこの地に立っている
  風と水が世界をはかる この地で
  誓うべきことはなにもないが……。

  春の雪が溶ける
  樹々の芽吹き
  頑なな花のつぼみがひっそりとゆるむ
  わずかづつ育ってゆくものの温い気配

  けれども
  わたくしたちが歩くこの地の
  いたるところに仕掛けられている
  果てしない冬の罠。

  いつかあなたの腕にからめた
  わたくしの腕が萎える
  歩幅のそろわないいのち
  遅れたものがその罠におちる。



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