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冬日 --- 手
冬日
遠い山並みに
かすむ雲の峰
ものみの塔から来たという
少女が 戸口にたつ朝
目を伏せた 否の仕草に
笑みはとぎれて
冬の陽は しばし
痩せた肩にとどまる
どんな不実な哀しみが
残雪のように
消え残るというのか
その肩に
竹林に 軟風は渡り
見えない雲の塔を
捜しあぐねて
私もまた一日を行きくれる
初出「断簡風信」23号(1989年)
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手
つめたいちいさな右手を
あたためようとしている骨太な両手
春を待つ農夫のような手のひらで
ゆっくりと解けてゆく凍土
両手の深い温もりは
まっすぐに胸骨の奥に届いてから
かすかに微笑む頬に届き
冬帽子のなかをゆっくりとめぐり
首 肩 背中 腕 足先
つめたい左手に届くまで
もうすこしだけ時間がかかる
つめたい左手のなかに
宿っている神の子は
祷りをまだ覚えていないから
つつましく待つことを知らないので
あたたかい両手のなかに
すべりこもうとする
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