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冬の記憶 --- 鳥
冬の記憶
物音に驚いて
鳩が舞い立つと
庭に散り敷いた落ち葉が
ふんわりと跳ねのけられて
まるい きれいな輪が残る
その優しい存在の痕跡
そのように象られた
去りしものの空白の形象を
しばしは留めよう
風の訪なうまでの
瞬刻の永遠を
初出「断簡風信」17号(1989年)
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鳥
胸骨のかごのなかに
永い時をかけて
一匹の
魂に似たものを飼いならしています。
幾度も幾度も過去をすすぎ
新しい時間のひかりをあてて
やがてそれを
わたくしは何と名付けましょうか?
小さないきもののような
束ねるまえの花のような
水位の見えないコップのような
それを。
天に放てば
たちまち天に抱きあげられ
落ちてくるとき
そこににちいさな空き地をおいてくる。
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