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荒れた額 --- 朝になれば



荒れた額


ものみな
痩せほそってみえる朝
水差しの
不安な水の中にも
かかえきれぬ空虚というものがある
荒れた額から
汗ばんだ指をずらす

意味のない囁きを
聞きながすことができない
こみあげる悪寒から
身をはなすことができない

池の面に
たよりない薄氷をみる
薄氷に足をとられた
幼年が不意に
おそいかかる

寒冷よ
幾重にも封印された
泡のような自虐を
処刑せよ



  初出「羅針」2号(1977年)

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   朝になれば


   昨夜
   ふいに言葉を閉じて
   あなたは眠りにおちた
   夜の闇はあたたかく深かった

   まだ目覚めないあなた
   物語の続きを待ちつづけている
   真新しい
   わたくしのちいさな器

   洪水のようにおしよせる言葉を
   受け止めるため
   そのちいさな器を
   絶え間なく不安な水がすすぎつづける



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