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秋の門 --- 秋の意志
秋の門
1
一瞬の空白に
秋がせりあがる
暮色の火花となり
消えのこる夢の空をかき乱す
獣は重たげに鎖を鎮め
首の輪は恨みの光をたたえている
溶解した林づたいに逃げ惑い
あらわれるものの予感がある
明けやらぬ無言(しじま)に
ひそやかに息を籠めるもの
水に浮かびでた火色の瞳に
訪ねた秋は吸い込まれてゆく
薄らいだ夢の奥処で
振り捨ててきた寂寥に会うために
野の道ばかりを選び
ゆくりなく狭き門をくぐる
2
鳥居を出立すると
そこは一面の秋であった
神経症(ノイローゼ)の蝶が
石のうえで眠りこけていた
暗い手をさしのべようとすると
際限ない光にくずおれ
一抹の塵となって失せた
風が集まると
樹木は身をよじって泣いた
いびつにあかぎれた枝先には
見捨てられた鳥の巣が
いつまでも光っていた
嗤い声がのろしのように
打ち上げられると
言葉を返そうとする
私の沈黙に
錆のようにふきでるものがあった
誰が石を積むのだろう
半壊した路傍の祠は
なかば瓦礫に埋もれ
一言主の失踪を
とどめるかのように
枯れ果てた門に
女が
一まいの髪を巻くと
うら淋しい
標であったりしたのだ
初出「増幅器」7号(1978年)
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秋の意志
死はいつでも指先から芽をふいているから
すこしだけ時間を止めて
あなたが書いた幻想の地上の思い出を
わたくしたちが歩いてみましょう。
いつかなにもかもなくなるのなら
あなたがなにかをいいあてることがありえるのなら
あなたの書いた物語を
わたくしたちの意志で叶えてみてもいい。
それはささやかな物語
金色に輝く秋の斜光のなか
まっすぐに立つ黄葉の銀杏に
わたくしたちが遭いにゆくこと。
特別といえば二人で行くこと
それだけです。
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