178
「わたし」と書く人が右どなりにいて
「私」と書く人が左どなりにいる
チリチリ足の指の股という股が燃えあがった
守るべきは何か
「わたし」にはだれもいない 孤である
「私」にもだれもいない 独である
ボーっとしているのはいい気分だ
「じゃ、おれは?」とおれが聞く
「あたいだってききたいわよ」とあたいも聞く
空に逃げることもできる
水のおもてに刻み込むこともできる
(ほんとか。いくら詩だといっても)
わからなかったものがわかったためしはない
そう、ただ、もっぱら力を込めて
つぶやく 勝手にしろ!
179
あたりまえをあたりまえに言うことの
ムツカシサよ 世の中誤解でみちてるよ
「このコーヒー、おいしい」この誤解は何レベル?
「おいしい」はきゅうくつだ
君のおいしいは何色?おれのおいしいの色は明るいブルー
だからつかまえたと思ったら、スルっと逃げられて
180
指先に引きずられるまま連ねたこのフレーズをどうするつもりなのかまさかこのまま活字にしてさらすつもりじゃないだろなまして誰かの目を引きたいのではなんてうがちすぎですか
181
あれこれ書いているけれど
人がいない
漢字の肝心の感じがこわばっている
今日の鳥海山はいい人相だ
なにしろ雪が溶けかかってもたれかかって
支えてあげたくなるような
そんな人相になりたいものだ
182
小池昌代詩集「ババ、バサラ、サラバ」の「ねじまわし」第四連二行目はなぜ//「わたしは」と「わたし」が独立しているのか。//そうか/見えなくなりかかっているのか、この「わたし」は//詩は作者のものか、みんなのものか/ときどきこうして底に残ったコーヒーを飲み干そうとしているのは、「わたし」なのか「おれ」なのか
183
時間を気にしないとこうなるんだ
どれだけしぼられ アレ、しばられてきたものか
オホーツクというのは切羽つまったことばだ
(ことば自体がどう思っているかは知らない)
(なぜってことばはみんなの洗面器だから)
オホーツクは「思いつく」のコピーだなんて
君はどれだけ言葉に思いを乗せて飛ぼうとしてるかがわかる
アジってるつもりはないけど、鰺っぽいかなその味