Sep 16, 2013

『秋の日本』、『お菊さん』

コベールの講演の演題に合わせて、町田図書館からピエール・ロチの2冊を借りた。『秋の日本』は角川文庫1953年刊、『お菊さん』は講談社日本現代文学全集15外国人文学集1969年刊、『お菊さん』のほうは係りの人によれば、「古い出版なので、町田図書館にはなくて、取り寄せ」てくれた。図書館の貸し出しシステムは懇切丁寧である。新宿三省堂で岩波文庫を買おうとした経緯を話すと、いっそう親身になってくれた。図書館ありがとう。 『お菊さん』は仏軍艦が長崎ドックに修理に入っていた2ヶ月ちょっとの間の話。明治18年の話である。外国人と日本女性との恋愛といえば、まず頭に浮かぶのが歌劇『蝶々さん』だろう。『お菊さん』も事情は似ていて、まだ開国まもなく西洋的な個人が日本では成立しておらず、個人対個人の恋愛は成立しがたい状況だったろう。いわゆる性の仲買人といった人物を通しての人身売買である。金を払い、親を説得して若い女性をその期間だけ独占する。面白いのは、最初に斡旋された女の子が気に入らず、立ち会った友人が眼を留めた付き添いのお菊さんを「注文」したといういきさつ。その経緯のため、同棲中も友人とお菊さんの間の関係に嫉妬に苦しむという、大変込み入った感情まで書き込んであり、そのような事実に対するまっさらな態度が、文学としての価値を高めていると思う。関係としては日本の性風俗売買システムに頼りながら、仏海軍将校=仏軍艦艦長としての品位は貶めていないというところか。日本官憲の摘発に会い、居直ってすごむ場面も掬い取っており、さいごは出航を関係者一同で見送ってもらうほど納得ずくで円満に別れるのである。 『秋の日本』は同時期の日本旅行記。京都、東京、日光の見聞記。これも『お菊さん』の作家らしく、観察が細やかで、事実の把握が実に正確詳細。日本人さえ啓発されっぱなし。びっくりしたのが訳者の名前。わが恩師村上菊一郎、吉氷清先生の共訳である。吉氷先生宅に一泊して秋の茸狩りをした記憶がよみがえった。先生、お世話になりました。村上先生のご本は数冊愛読している。チャンチンの若木を分けていただいたのを、この家で40数年、5月のピンク色の若芽と秋の金色の紅葉をしみじみと堪能したが、数年前に枯れた。寿命だったと思う。村上先生、わたくしはまだフランス詩にとっついています。
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