Jul 22, 2011

シャルル・ボードレール 「深キトコロヨリ叫ビヌ」

ぼくはあなたのあわれみを願う、ただひとりの愛するあなた、
ぼくの心の落ち込んだ、この暗い深淵の底から。
これは鉛色の地平のひろがる陰鬱な世界、
夜のなかを恐怖と冒涜がただよう。

熱なき太陽は六月(むつき)頭上に浮かび、
残る六月は、夜が地上を蔽う、
これは極地よりさらに裸形の国、
――けだものも、流れも、青草も、森もない!

思えばこの世に、この凍りついた陽の
冷たい残酷と、いにしえの混沌に似た
この涯しない夜にまさる恐怖はない。

愚かしい睡りのなかに浸りうる
世にも卑しい動物の運命をぼくは羨む、
それほども時の糸かせはゆっくりとくられてゆく!

(粟津則雄訳)

4,4,3,3のきちんとしたソネットで現在のニヒル(当時の)を定着しようとするアンバランスが魅力。ただし最終行、「世にも卑しい動物」という表現には、現在ではかなり違和感があるだろう。今の詩人は「うらやましいほど天然の、野生の恵みに満たされた動物」などのように言うだろう。
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