Nov 29, 2005
世界とのめぐりあい
久しぶりに数年前の仕事に呼び出されて、その再開の機会を得た。つまり補遺の仕事である。
かつては不治の病とされ、あるいは遺伝性、伝染性などの観点から世間に恐れられ過酷な運命を辿った病が、医学の進歩とともにそれらは撤回されるという病の歴史は多々ある。この仕事も、その過酷な病の永い歴史を辿った人々の書かれた文学作品の集大成である。わたくしはその作品の整理を手伝うにすぎない、微々たる戦力でしかないのだが、こうして多分世間の大方の人々よりもわたしはこの世界の方々の声を聞いたのかもしれないと思う。またこれらの文学をさらに背後から支えた宗教、思想などもおぼろげに垣間見たと思う。
数年前のわたくしはその仕事に溺れそうになりながら、やみくもに読んだという必死の記憶ばかりがあるのだが、今回は少しだけ変った。少なくとも、その空白の数年の期間に、わたしはこうした閉鎖された過酷な世界から紡ぎ出される言葉について、わたしなりの考え方、あるいは向き合い方を手に入れたのだと思う。
また、人間の本当の優しさとはなにか?あるいは目をそむけてはならないものに、視線をそそぎ続ける強い意志と愛はなにか?そのようなものを、この仕事と、それに関わる方に教えて頂いている。
『一尾の魚を網はとらえる。けれども網が存在するのは、網よりも広い世界がそこにあるからである。そして一尾の魚は、その広い世界に属している。網は、魚を捕まえることで、その広い世界と関係をもつのだ。』 加藤典洋
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