Jan 22, 2009
にせもの美術史 トマス・ホーヴィング
翻訳:雨沢康(謎につつまれた、ラ・トゥールの「女占い師」)
本書のサブタイトルは「鑑定家はいかにして贋作を見破ったか」と書かれています。「トマス・ホーヴィング」は1977年までの10年間ニューヨークの「メトロポリタン美術館」の館長を務めた人物であり、古今の贋作についての豊富な実体験を交えながら書かれたものです。前半では古代から現代までの贋作の美術品とそれにまつわるおびただしい数の人間たちのドラマです。後半は美術を学ぶ学生時代から始まる自伝のようになっています。
千の芸術を知る者は、千の偽物を知っている (ホラティウス・古代ローマの詩人)
これは本書の扉に書かれた言葉です。贋作の歴史は美術の歴史とともに歩んできたといっても過言ではないでしょう。そして贋作はひとつの作品と考えることもできる。そしてまた欺くことを目的としたものとに流れはわかれているのでしょう。しかもこの贋作者たちの巧妙ともいえる企みは、高名な美術館や、国の文化庁のようなところまでが翻弄されたというのですから、それは「歴史的事件」でもあったでしょう。
「トマス・ホーヴィング」は、館長時代にキュレーターに、美術品を新たに購入する際のチェックリストを15項目つくりましたが、そのなかの1項目は特に興味深い。それはこう書かれています。
★その作品がなんのために使われていたかを問え。
かなり最近まで、美術品は実用的なものだった。たとえば、ある種の祭壇画は人々をペストから救うために描かれたものであり、絵の表面には信者のキスのあとが無数についていた。贋作者はそうした敬虔な行為を真似ることはできない。
「トマス・ホーヴィング」は経験豊かな美術鑑定家であり、さらに大変に雄弁で機知に富んでいる方で、きりがないほどに、贋作問題のお話を抱えていらっしゃる方です。この一冊ではおそらく語り尽くしてはいないのではないでしょうか?感想を書くわたくしとて、この一冊について語ることは無理なようですので、これにて失礼いたします(^^)。
(1999年・朝日新聞社刊)
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