Jul 27, 2007
ポビーとディンガン ベン・ライス 雨海弘美訳
ベン・ライスは一九七二年生まれ、オックスフォード大学院在学中に本書でデビューしています。これはベン・ライスの恋人モリーが語った少女期の思い出話のなかにいた「空想の友人」がべースになっています。そしてこの本はそのモリーへ捧げられています。ここまでで、すでに物語は始まっています。
舞台は、オーストラリアのオパール鉱山のある「ライトニング・リッジ」という町です。オパールを求める採掘者がほとんどで、人口が一定していない町でもあるのです。
オパール採掘の夢のためにこの町へ来た父親、家計を助けるためにマーケットで働く母親、兄のアシュモル、八歳の妹の「ケリーアン」の四人家族です。この「ケリーアン」には空想の二人の友人「ポビーとディンガン」がいるのでした。この二人の友人のために母親は、「ケリーアン」に三つのキャンディーをあげたり、三人分の食事の用意までするのですが、兄のアシュモルはこの友人の存在を信じませんでした。
しかし、「ケリーアン」は「ポビーとディンガン」を見失った時から、病気になり、なかなか回復しない妹のためにアシュモルは町中の人々に捜索依頼をするのでしたが、「ポビーとディンガン」はすでに採掘場の瓦礫のなかで死んでいました。その証拠は「ディンガンのお臍」と妹が言っていたオパールの原石があったことでした。
「ポビーとディンガン」のお葬式を町中の人々が行い、その一週間後には「ケリーアン」も亡くなりました。その日からアシュモルは妹の死を信じられず、妹に語り続ける日々、そして町中の人々も「ケリーアン」に語りかける日々を過ごすことになるのでした。この物語は、捜しても捜しても見つからないものを捜し続けることを知らない人々への「オパール」に託した、痛いような問いかけだったのではないでしょうか?「夢見る力」が物語をつくるのです。しれがアシュモルの大切な役割だったのです。
「ケリーアン」はなぜ一人ではなく「ポビーとディンガン」という二人の空想の友人を作り出したのでしょうか?それは「一人ぼっち」という状況を誰にもつくってはいけないという彼女の願いだったのではないでしょうか?
(二〇〇〇年・アーティストハウス刊)
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