Jun 11, 2007
妖精学入門 井村君江
一冊の本を読むということは、数冊の本やたくさんの思い出を、そして一編の詩を呼び出すという行為でもあるのでしょうか。。。
ひとつの沈黙がうまれるのは
われわれの頭上で
天使が「時」をさえぎるからだ
二十時三十分青森発 北斗三等寝台車
せまいベッドで眼をひらいている沈黙は
どんな天使がおれの「時」をさえぎったのか
(田村隆一「天使」より抜粋)
五世紀頃までは、ヨーロッパの大部分、バルカンまで居住していた民族「ケルト」は、ローマの支配、ゲルマンの圧力により衰退。現在はアイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブリュターニュに散在する。こうして次にはキリスト教の布教により、土着の宗教とそれにまつわるさまざまな神話や伝説が風化してゆく例が欧米諸国には多々ある。しかしアイルランドの「ドルイド教」は「ドルイド教にキリスト教を接ぎ木する。」という、聖パトリックの布教の緩やかさによって、ケルトの「ドルイド教」の神話と伝説はここまで永い歴史のなかに生き残ることができたようです。
それは、絵画、物語、音楽、舞踏、演劇などのあらゆる分野に影響を与え、そこからさまざまな「妖精」がさらに生まれ、豊かな歴史の源となったと言ってもいいのではないだろうか?
「妖精」という言葉が日本に定着したのは大正時代です。明治三十四年、上田敏は「Fairyに好訳字なし。仮に『仙女』と呼ぶ。」とした。大正末期から昭和にかけて、西条八十は「妖女」、大正十三年、芥川龍之介は「精霊=フエアリー」、大正十四年、松村みね子は「フエヤリー」「妖精」、菊池寛は「仙女」「女の魔神」、同時期に「愛蘭土文学界」を作った吉江喬松、日夏耿之助たちが「妖しい自然の精霊」として「妖精」という訳語を定着させたとのこと。
「仙女」はすでに一三三二年の「元亨釈書」に用いられ、「風土記」では超自然の存在を「天女」「西王母」「乙姫」と呼んでいる。「妖精」たちは古今東西を超えて、飛び交っていたのではないのでしょうか?限りある人間のいのちを豊かにするものがあるとしたら、それは「想像力」が生み出した「妖精」の飛翔ではないでしょうか?
この著書は、「妖精辞典」という感じがして、お借りした本では覚えきれなくて、それが淋しくて、手元に置きたくなって、同じ本を買いました。お借りした本は「一刷」ですが、わたくしの手元に届いた本は「六刷」その間には八~九年の時間が流れています。。。
(一九九八年初版/二〇〇六年六刷・講談社現代新書)
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