Dec 18, 2006

若き詩人への手紙  リルケ

magritt32
 私事ながら、秋に詩集「空白期」を出しました。詩集を出すことにはいつでもたくさんの躊躇があります。それは何度体験しても克服することはできません。それでもあえて出すのは何故でしょう?
 この詩集を出すと決めた時に、大切な友人から「詩を手放したら生きてゆけない、と言うほどの思いがあるか?」という質問(詰問?)を受けました。「はい。」とは言えなかった。しかし「いいえ。」では絶対に違う。「その質問には答えたくない。」と言いました。一旦決めてからの詩集制作過程は大変幸せな時間となりました。その後の発送の時間も淡々と過しました。そして、あらためてわたくしは「リルケ」に帰りたくなりました。

 わたくしが師と思っている唯一の詩人新川和江さんに、十二月の初めにお目にかかりましたが、その折の新川さんとの会話の大半が「リルケ」だったということも、その大きな要因かもしれません。それから新川さんはすでにたくさんのお仕事をされて、詩人の育成にもお力を注いだ方であるにも関わらず、お会いする度に少女のように「よい詩を書きましょうね。」とおっしゃることへの驚きと歓びと同意とが、わたしを「リルケ」再読に連れていって下さったのかもしれません。以下はすべて引用です。大変に美しい翻訳ではないかと思います。

 『日常の富を呼び出せるほどに自分が十分に詩人ではないのだと心にうちあけなさい。』

 『芸術作品は無限に孤独なもので、これに達するのに批評をもってするほど迂遠な道はありません。愛だけがそれを捕えて引き止めることができ、それに対して公正でありうるのです。』

 『一人の創造者の思想のなかには忘れられた幾千の愛の夜々がよみがえり、その思想を尊厳と高貴をもって満たします。』

 『かつて少年の日にあなたに課せられたあの大きな愛は、失われたのだとはお思いにならないでください。あなたが今日でも生きる拠り所となさっている大きい良い願いや企てが、当時のあなたの心に熟していなかったかどうか、おっしゃることがおできでしょうか? わたしはあの愛がそんなに強く烈しくご記憶に残っているのは、それがあなたの最初の深い孤独であり、あなたが自分の人生に即してなさった、最初の内的な仕事だったためだと思います。』


 これらの言葉を書き写すことで、心に残しておこうと思います。

 (昭和三十九年・世界の文学36・中央公論社刊)
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