Jun 22, 2006
雨の名前 文・高橋順子 写真・佐藤秀明
これは約四五〇種の「雨の名前」が収録されていて、それに短い解説がつけられている。俳句の季語であったり、ある限定された地方だけに使われる名前だったり、季語とは無関係に成立している名前もある。湿度が高く、さらにくっきりと四季のあるこの国ならではの豊かな言葉の文化だと思う。ところどことに詩や短歌や俳句が読めるのも嬉しい。「雨の博物誌」と言いたいような本です。
そういえば著者の高橋順子には「時の雨」という詩集がある。小説家車谷長吉との遅い結婚生活を描いた詩集である。「時雨」は冬の季語。さらに「時雨」がつく「雨の名前」はこの本のなかだけでも二十種類に及ぶ。それは詩集「時の雨」の見せる高橋順子の新しい多面性に似ているようだった。
佐藤秀明の写真も素晴らしいものだ。大仰に構えずさりげない雨の風景を切り取っている。「雨」は本来写真家にとってはマイナス要素だろう。それを逆手に取ったような細やかな視線を感じさせる写真であった。一冊は四季に分けて、さらに「季知らずの雨」と五つの項目に分けられています。
今はちょうど梅雨の季節です。「男梅雨」「女梅雨」という言葉がありました。前者は「快男児」後者は「しとやかさ」に寄せた言葉だと思いますが、さてさて今はどうだろうか?
春の「山蒸(うむし)」。夏の「雨濯(うたく)」などはじめて聞く言葉だった。また夏には「雨乞い」の歌と俳句の紹介がある。これらの歌と俳句は神へ届いたと言われている。
ちはやぶる神もみまさば立ちさはぎ天の戸川の樋口あけたまへ 小野小町
夕立や田を見めぐりの神ならば 其角
秋には「通草腐らし」があって春の「卯の花腐し」と呼応する。冬にはお馴染みの新年の「御降り」、年末の「鬼洗い」などの言葉は今でも心新たな気持になる言葉ですね。
このような本は一回通読して終われない気分になります。これは小川三郎さんにお借りした本なのですが、手元に置きたくて、同じものを注文してしまいました。
(二〇〇一年・小学館刊)
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