Mar 23, 2006

かもめ食堂  群ようこ



 読後にほのぼのと、またさわやかな気分になる本に久しぶりに出会った。たまたま映画「アメリカ・家族のいる風景」を観た折に、この本の映画化されたものの予告編を観たことがきっかけとなって、この本を読む羽目に(?)なりました。映画はまだ観ていませんが、この本は映画のために書き下ろされたもののようです。

 さて、これは三十八歳、四十歳ちょっと、五十歳の三人の独身女性が、日本を出てたまたまフィンランドのヘルシンキで出会うお話です。そこで主人公サチエの経営していた「かもめ食堂」が物語の中心の場となります。物語の登場順に女性の年齢が高くなるのでした(^^)。

 サチエ(三十八歳)は小柄だが武道家の父の指導のもとで育ち、武道の心得は相当なものである。料理には関心が深く、母亡き後は彼女はさらに料理の研究に熱心だった。そして自分らしい食堂経営を求めて、父に別れを告げ、宝くじで当たった大金を元に、ヘルシンキへ向う。地元では東洋人の小柄なサチエは子供のように見えたらしく、「かもめ食堂」は「こども食堂」と呼ばれていた。(小さいから、どーした?・・・・・・独り言です。)
 サエキミドリ(四十歳ちょっと)は、目をつぶってたまたま地図に指先が落ちたところがヘルシンキだったという理由で、この土地を訪れる。サチエとは書店で出会って、アパートに同居して店を手伝うことになる。
 シンドウマサコ(五十歳)は両親の死後に、両親の介護中にたまたまテレビで見たヘルシンキに好感を持っていたという理由で、この土地に現れ、「かもめ食堂」を訪れる。「かもめ食堂」に働くのは三人となり、店はゆっくりとおだやかに地元に根をおろしてゆく。

 この三人の女性の日本における生活が、貧しかったわけでもなく、とりたてて不幸であったわけでもない。その背後にあったものは、老親問題、あるいは死など、どこにでもみられるようなものだ。その時期に、自分探し(・・・というほど大袈裟でもなく。)のために、くじを引くように「ヘルシンキ」を訪れて、偶然に三人は出会った。はっきりとした意志やら目的やらがあったのはサチコだけだったろう。これはちょっと歳をくった女性たちの素敵なメルヘンではないだろうか?

(二〇〇六年・幻冬社刊)
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