Dec 03, 2005
地下室アントンの一夜 尾崎翠
ある日ある時、わたしが「尾崎翠」を話題にした時、F氏が「アントンが一番おもしろい。」とおしゃったので、未読だったこの本を改めて読みました。たしかにこれは面白い短編だった。学者と詩人との「スピリット」の差異性を見事に描いているのだ。
動物学者の松木は実証派であり、「スピリット」を殺す度に一冊の著書が書き上げられるのだと、詩人土田九作は思っている。そして土田自身は一冊の肉筆詩集を持っているだけなのだ。その詩人は恋をすると恋の詩が書けない。「おたまじゃくし」の詩を書こうとする時に、松木は詩人に、失恋したばかりの少女(小野町子)に、一瓶の「おたまじゃくし」を届けさせる。
すると詩人は、少女にも「おたまじゃくし」にも心を占拠されてしまって、ますます詩が書けなくなった。松木の好意は伝わらず、松木は怒り、土田も怒る。お互いに一発お見舞いしようとするのだが、精神科医の登場でこの一夜は無事に終わり。。。
夜の火葬場の煙突はただちに星に連なっている。地上はつねに空と隣り合わせである。だから人間は「空」というものに感情移入をしてしまう生き物らしい。北風、南風によって煙も人間もおおいに影響を受ける。土田の頭も北風の日には冴えるのだが、南風の日には何度も頭を振って、ようやく肩の上に頭があることを確認するという状態なのだ。「スピリット」とはかくも困難なものなのだった。。。
「アントン」は、どこかの国の黄昏期に棲んでいて、いつでも微笑んでいるという医師「アントン・チェホフ」の名に由来するらしいのだが。。。
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