遺言
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遺言



なにもおかずがないので 生卵を割り
モロヘイヤのおひたしを入れ
しょうゆをさし かきまぜて
白ごはんにぶっかけて食った

二杯目を盛ろうと
炊飯器のふたをあけ
へらで半分盛ったら
のこりあとわずか
それも盛ると食べ過ぎる気がしたのだが
牛乳もおかずも
ほんの少し残すくせを
笑う涼しい声が聞こえて
おもわずぜんぶ盛ってしまった

鏡台の前で髪をすく女に
食べ過ぎてしまったなりゆきをこぼしたら
「私のせいにしないでよね」って


これは
引き出しの底にかくしておこう
日付けは入れない
いく千いく百いく十いくつ目の生卵を割った朝
ふいに思い出し
ふるえる指にはさんで
なつかしむために
あるいは
おれがいなくなったあと
女がみつけて
ひとときたのしむために


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