天玉
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天玉



「天玉」の券とつり銭を握り
ドアをくぐった
いつもはすぐにうどんなのだが
曇り空の今日は妙にゆれて
そばかうどんか、うどんかそばか
並んで待つ間 迷った
迷いながらいよいよになり
うどんの「う」がせりあがってきたとき
「天玉のお客さん、そばでいいですか」
とっさに「そば」とオーム返しに答えた 
「うどん」の「う」を見捨てて、なぜ
と思いながらかき揚げをはしでちぎり汁をからめ
(選択を他人任せにした)
そばといっしょにズ、ズ、ズルズル、ズ、ズ
(さまざまな選択を他人任せにしてきた)
なぜ「うどん」とはっきり言えなかった?
はしを
たまごの黄身に突き刺す
とろとろたよりなく流れ出す これは

となりに男が座ってすぐ立ち上がり
カウンターにどんぶりを置いて
「ねぎ、入ってない それから
 おつゆ、も少しくれない?」
あれは
あれはなぜ
おれじゃない


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