言葉

言葉

春野たんぽぽ

車椅子を押している女がいる
誰も座っていないその椅子を
女はひどく重たそうに
押している

私は噴水に座って
女をじっと見つめていた
すると
私に気付いた女が
車椅子を放り出して
私の元に駆け寄って来た
放り出された車椅子は
車道に投げ出され
トラックに轢かれようとした

私は女をすり抜けて
走って車椅子の元に行き
そこに座っているはずの
生を抱きしめた
車椅子だけが粉々になった
人だかりはできたが
それもすぐになくなり
トラックも去り
女が私に笑いながら
近付いて来た

私は女を見つめながら
いつの間にか
自分の胸の内に入り込んだ
生に咳き込んでいた

見えてたんだね
女が言った
知っていたよ
また女が言った