冬至のころ、黎明の声ー平成の時の終わりにー
冨澤守治
遠くひびく黎明の音
ときに記憶の底にも問い合わせる。それにしても聞こえない
先祖たちも聞いたろうか?
それさえもわからない、わからないものを語るものとしての神話というもの
よく和のひとと言われるわれわれ、日の昇る国の大きな和の地に住まうというが
それこそは悲しみの多い国、災いの多い国。それでも寄り添い合い生きてきた
これだけは確かにそうだったのだろう
神話のなかにある黎明に住まうわれわれ
いかにして生きるか、どうして生きていくのか
苦悩と欠乏のなかでそればかりを考え続けている
いままでもそう、これからもそう
せめて愛はあれ
性愛であれ、慈愛であれ
ひとはひとであり、むなしさと空腹を満たそうとするもの、満たしてあげようとするもの
寒冷からは身体の脇の部分をあたためるもの、叶わねば抱きしめるもの
猛暑からは喉をうるおすもの、日陰は作ろうとするもの
それらばかりは価値のあるものども
悲嘆と苦痛にあっても嘆きのうすいものども
およそ神話からは遠くなり、黎明の声は遠く聞こえる
しかしていにしえより伝わるものには理由がある
この世に根拠のないものなどはない
かようなわれわれを統べるものは何か?
ただ遠き森と湖(うみ)と入江から聞こえてくるもの
ただそれを歳神(としがみ)の訪れの日々にわれわれがあるかのようにわれわれは待っている
春は来たりて、われらの望みを叶えよ
この傷みを和(なご)ませられよと、祈りつつ
※ここでいう「神話」・「黎明」は、この詩によって規定されたミソロジーである。