枝先にて震えが伝わり

枝先にて震えが伝わり

冨澤守治

枝先にて震えが伝わり
暗闇の夜を越えて、朝日が差し込むころ
わたしは自らの知性を疑い、そうも非合理な夢の話の筋道から抜け出せず
ただ起きようとする意識が意識を目覚まし
また枝先の朝露のごと、さざなむ表面張力の、水玉のふるえのごとく
とまどっている

そういえば昨夜、ある女が近づいてきた、暗闇の帰りの広場で
このひと月ほど、警戒していた
これも欲か愛かの大樹の枝先に震えが伝わることか
この世は男と女の性差であふれているのだ

悲しみの夢のなかで目覚める
荒れた青春のあと、すぐにやってきた死の淵に沈んだこと、病い
伝え聞く女(ヒト)の恋ごころにも応えず
もうすぐわたしは死ぬだろうと、控えめにしていた
ただ、枝先にて震えが伝わっただけ
わたしの恋ごころに背いて、相手に伝えず
悪夢とも言えず、良しからぬ夢、

いつのこと多賀の宮居に行きしこと懐かしきともまた往ければと
こんなことでも懐かしい

枝先にて震えが伝わる夜明け、しかし数十年が経ち、あの死神だけは打ち倒したか?
さらにどういうわけかいまも道があり、その道を往く年老いたわたしはわたしの身体
を引きずり、生きる
暗闇の夜を越えて、自ずと朝日は差し込んでくれる
いまわたしは自らの知性を疑うこともない、そして非合理な夢の話の筋道から抜け出
そうとしてもがき
起き抜いた、こころはまどうことはない
いまも再びまた青春の風は吹き薫り、吹き渡り
また枝先の朝露のごと、さざなむ表面張力の、水玉のふるえのごとく
枝先にて震えが伝わり

やがて、春が来ればと願う