午前 林を歩く 清水鱗造 うらうらとした陽ざしに乗って 角を曲がると 誰もいない そこにいた誰かが 陽に溶けた気配 雲ひとつない晴れた日 林の中の道の草に 陽ざしがまつわりついている 少しの昔が陽に含まれ 少しの昔のゼラチンが 草本を包む あ そうだ それは あなたが早い春の 花の咲く段々畑を 青空を背にして 登るのを見た ほんの少しの昔