ててっぽっぽう
高田昭子
遅い朝食のテーブルにいると
いつも聴こえてくる鳴き声
あれはかの詩人の「ててっぽっぽう」の声だ
いや、それは声ではなく
声が聴こえる方角だったかもしれない
明け方に哀しい涙だけを運んでくるひとの……
あの日
父は無花果を食べていた
庭の無花果の木では
ててっぽっぽうの声がする
その時初めて
ててっぽっぽうと聴こえた
かの詩人と初めて繋がった思いを
父に告げた
父は「そうか」と言って
黙って無花果を食べていた
しばらくしてから
「古里では、ででっぽうと言っていたな。」と言った
濁音と清音が息づく様々な古里の言葉
南から北へとのぼりながら
言葉は素朴な濁音をまとってゆくようだった
あの日から
父は北の古里ばかりを恋うていた
ててっぽっぽう
ででっぽう
父はすでにいない
明け方にみる父の夢と
遅い朝食はいつでも淋しい
* 永瀬清子・明け方にくる人よ