七月の園芸家 沖縄篇
石川為丸
七月はサガリバナ
薄桃の総状花序が
夜風に揺れて
甘い香りをただよわす
沖縄の夜はいい
だが昼間の園芸作業はたいへんだ
暑さのために乾いて固まった土を
中耕してやる必要があるからだ
炎天下の作業は熱中症で命取りになる
いきおい園芸作業は夕方に集中することになる
ここ沖縄では掘り出すガラクタが夥しい数にのぼる
ジョッキの破片、折れ釘、針金、チョコレートの銀紙、
察するに、いかに深く埋められたとしても
土地がそれらを異物として受け入れず
徐々に地表に押し戻す作用があるらしいのだ。
底のすり減った軍靴、パラシュートの紐、薬莢、
その他、数えきれないほどたくさんのものが耕作地から出てきて
園芸家を驚かせる。
ここ沖縄では思い切りよく鍬を入れるわけにはいかない
不発弾が出てくることもあるのだから
細心の注意を払って掘り返す
効率が悪いうえに
しかも夕方の限られた時間で行う作業なので、何日もかかってしまう。
七月は中耕で始まり中耕で終わる。
夥しいガラクタの中に
アメリカ製のドラム缶が出てくることもあった
ベトナム戦争で米軍がばら撒いたダイオキシンを含む枯葉剤だ
こんなときにはもう園芸家の手には負えない
ではどうすればいい?
七月の園芸家は無力感に打ちひしがれる
夜闇に揺れるサガリバナも
ものがなしい
七月の沖縄の夜
(カレル・チャペック「園芸家12カ月」に負う)
(注)1 総状花序――下から上へ、あるいは周りから中心部へ咲いてゆく無限花序のひとつで、柄のある小花が長い円錐形または円柱形に並び、下から咲いていくもののことである。
2 ダイオキシン――有機塩素化合物のポリ塩化ジベンゾオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称。極微量でガンや生殖器障害などの原因になる物質で毒性が極めて高い。ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤もダイオキシンの一種。枯れ葉剤がまかれたベトナムやアメリカのベトナム帰還兵の子供や孫に多数の「奇形児」がうまれている。健常者同士が結婚しても、その祖父や祖母がダイオキシンに影響されていて、奇形児が生まれているのが現状だ。ダイオキシンはDNAを破壊するので、何世代が影響を受けるのか、未だに不明である。しかも治療薬がないという。