野蜜の川で
足立和夫
みどりが切れていく
どこまでも光のつぶ
遠い荒れ野の
見知らぬ惑星の山頂で
ただひとりの神は
野蜜のように眠ったまま
死んでいた
首塚の電柱のはしから
蛇が三匹絡んで落ちて
闇黒のなかを這っていく
事務室のはじっこで
明け方までの夜の時間
通俗推理小説のぬくもりを読みふけった
机のうえでは
すでに男の人生はおわっていたが
闇黒のなかで息をついている
陰茎からは
黒ずんだ蛇の頭が垂れていた
見あげると
厖大な空の青の深さ
空は一瞬にして
何事かを隠しおおせた
死を抱えたひとの目には
知ることはできなかった
河原のそばで
赤ん坊の泣き声が
響きわたっている
みどりの荒れ野のなかで
川の小石のように
永く響いている
限りないひろさの
銀河の果て
ちいさな惑星の空のふくらみでも
それは響いていた
茫然とした砂丘のつらなりにも
野蜜のよろこびがみちてきて
光の束が建っていた