樹の宿題
石川為丸
六月の夜の大通り 島酒に酔い痴れて でたらめを叫んでいるわかものたち 通りすがりに声をかけては無視されている者 行き場もないのか コンビニの前に坐り、うなだれている者もいる。自分を支えるもの 自分が支えるべきものも ないのだろう。
この島にて。
路上を吹き抜ける初夏の烈風に くるしげに身をゆする裸樹 葉は落とされ、ちりぢりにはこばれていったのだ。
樹の宿題を残したまま。この島はいつだって金網(フェンス)の向こうもこっちも まちがったものがまちがったやり方でつくられていたから ここで 私は何をしていたか
シュプレヒコールの波 突き上げる 青インキに染まった 軍手 鉄筆で 刻んだ 薄明の 言葉 青春のくらい冥い盟約 もがきよじれもぎれた組織の きしみきしる軋轢 そのくるしみがどんな形をとったかはしらない。
私はただ通り過ぎるものだったから 本当のことをぼかしたまま 呼びかける声に答えなかった
はぐれた町外れの つまずきやすい石畳 息を切らして下っていけば 廃屋の崩れかけている石垣に 烈しく光が降り注いでいた 浜辺の珊瑚は散らばった骨のようだ。
人のいのちのかなしみは この島のおちこちにただよい、私はここで何をしつつあるか
仏桑華の赤は あくまでも鮮やかに 島での悲しみはまだ、終わってはいけないとでもいうかのように 降りそそぐひかりのなかに、顕つひとが見えていたのだ 樹の宿題を 残したままの島惑い 私はそのとき、どこにも属するところのない 異風な声の、なにものかによばれているようだったから