西日の入る部屋
一瀉千里
西日が入る 狭い部屋には
本が 山積みだった
歩くと 足元の本の角が当たって
バラリと崩れた
崩れた その本の中の
散乱し はみ出た一冊
表紙には 炎の海で泣き叫ぶ子供
真夏の 酷暑の朝が
始まろうとしていた
誰も 何も予想しない
お城の 石垣で丸い陰を残して
一瞬に 消えたひと
生きるとか 死ぬとか
選択する余地もなく
こぞって 死の底へと引きずりこまれた
一九四五年の 八月六日
六十三年前の あの朝
戦争の痛みを
あの日の痛みを
刻印するために 世界中から
必然のように 集まる人々
しかたがなかった
なんて 街ひとつを燃やしておいて
消えた命に 謝罪をすることもなく
まなこを しっかりと開けて
現状を 確認するがいい
西日の入る狭い部屋から
あの日の朝へと 白い道が現れて
スルスルと 繋がってゆく