犯罪許可証
南原充士
ふと拾った犯罪許可証―――免罪符
盗もうと殺そうと犯そうと 咎められない権利を保障されて
男は おそるおそる鏡を覗き込む
(この顔でどれだけ残忍なことができるだろう)
やがて思いつめたようすで 男は
外に飛び出し 町の中で見つけたピチピチギャルに
敢然と襲いかかり 有無を言わさず
思いを遂げ
あまりのあっけなさに 夢ではないかといぶかった
おまけに娘は無表情に応じ すぐに消え去ってしまった
(しかし あんな感覚は空想では得られっこない)
男は 二人 三人と 愛くるしいギャルを物にし
やがて けだるさを引きずりながら
町一番の高級レストランに立ち寄った
男はテーブルにゆったりと腰をおろし
次から次に料理を注文し
ワインも飲み放題
めまいとも酔いともつかぬ心地で立ち上がったはずみに
隣のテーブルにぶつかってしまった
お客は 一瞬 三角の目で男の方を見た
男は激昂し テーブルをひっくり返し
お客の若いカップルを足蹴にし
もちろん店中のインテリアは手当たり次第に破壊し
勘定は払わずに店を出て
いったん引き返して レジから紙幣を
わしづかみにして 上着のポケットに詰め込んだ
時は秋 涼しげな風の吹きぬける夕暮れの町を
男は 歩きながら
(もっと残酷に! もっと容赦なく!)の声にそそのかされ
銃砲店に押し入ると
ライフル一丁と弾丸を奪い
町を行く人びとの群れに向かって 腕が疲れきるまで撃ちまくった
悲鳴をあげて逃げ惑う人びとの中に
たしかに血しぶきをあげて倒れる者があり
数十人の死傷者たちが 通りに無秩序に横たわった
男は車を強奪し
時速200キロのスピードで走った
危うく 他の車に衝突しそうになったり
道路から転落しそうになったりしたが
いつのまにか通行量の少ない郊外に出てしまった
見れば 飛行機が間近に飛び立っている
男は 一路 空港へまっしぐら
ジャンボ機を乗っ取ると
パイロットに命じた
「アメリカに行け、ニューヨークだ」
アメリカに着くと 男は
ペンタゴンへ駆けつけた
やがて
どこからともなく多核弾頭ミサイルが一基
また一基と
敵国へ向けて発射された
あっけなく核兵器が使われ
誤解は解くいとまもなく 世界は
核戦争に突入した
男は 廃墟と化していく地上を見やりながら
“犯罪許可証”を投げ捨てた
それは スペースシャトルを尻目に
ひらひら ひらひらと
どこへともなく落ちていった