第三回目 「酔いたまえ」


「 つねに酔っていなければならぬ。万事がそこにあり、これこそ唯一の問題だ。君の骨を砕き、君を地面に押し曲げる時の重荷を感じないためには、絶えず酔っていなければない。
 しかし、何に?酒に、詩に、徳に、君の好きなように。ともかく酔いたまえ。
 そして時おり、宮殿の階段に、濠の青草に、君の部屋の陰鬱な孤独のなかに、君が眼を醒まし、陶酔がすでに衰えているか、消え失せているときには、聞くがいい、風に、波に、星に、鳥に、大時計に、あらゆる逃げ去るものに、あらゆる嘆くものに、あらゆる流転するものに、あらゆる歌うものに、あらゆる語るものに、今は何時か、と。そうすれば、風は、星は、鳥は、大時計は、君に答えるだろう、「酔う時だ! 時間にしいたげられる奴隷にならないためには、絶えず酔いたまえ!酒に、詩に、徳に、君の好きなように」。」
             (ボードレール「パリの憂鬱」より)


  文章といっても散文詩で、そのうえ、お酒についてだけ語られているというわけではないんですが、よく引用されたりもする、有名な一文。 タイトルは詩の表題そのまま。(桐)


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