第六十七回目 ブローティガンの「飲めや歌えで夜が更ける」


○高橋源一郎訳『ロンメル進軍』(思潮社)はリチャード・ブローティガンの詩集「ROMMEL DRIVES ON DEEP INTO EGYPT」に収録されている85編の詩の中から76編を訳出した翻訳詩集。で、そのなかから。


飲めや歌えで夜が更ける

      リチャード・ブローティガン


飲めや歌えで夜が更ける
歓楽極まって哀切深し、か
きみはひとりで自分の部屋に戻ってきた
この世界の一切は風が止んだ後の小枝のようだね

         リチャード・ブローティガン詩集
        『ロンメル進軍』(思潮社)所収


○酒宴もいつかはおわる。21回目でとりあげたヘッセの「うたげの後」の気分。意味合いは違うが木や風のことがでてくるのも偶然ながら似ている。最後の行がぴたっとくれば、わかるわかるという感じの詩だ。
 ブローティガンの詩は短いのが特徴で、たとえば「死につつあるきみが最後に思いうかべるのが/溶けたアイスクリームだとしたら」というタイトルの詩は、「そうだな/そういうのが人生かもな」という二行でできている。さらには「1891--1944」とか「8ミリメーター」「88個の詩」のように、タイトルだけあって、本文のない作品もあっておかしい。こういう「詩」は、ちょっとした洒落みたいに作者の詩(のイメージ)にむきあうセンスを楽しめばいいのだと思うが、その逆転の発想自体は、作曲家ジョン・ケージの、ピアノの前に座った演奏家がピアノを弾かないという有名な作品「4分33秒」に似ている。そこに音楽や詩を観賞する磁場みたいなものがあれば、空白の意味というのも発生する、というふうに考えることもできそうだ。同じ詩集の中から短いお酒の詩を二編。


ガールフレンドと缶ビール半ダース

      リチャード・ブローティガン


ガールフレンドがいて
それから半ダースの缶ビール
わたしの望みというのはそれだけだな
雨の降る寒いこんな冬の夜には


1月7日


その日の午後
一杯やっていて
とつぜん
気づいた
昼間が長くなってきたのである

         リチャード・ブローティガン詩集
        『ロンメル進軍』(思潮社)所収







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