[ BACK ][ HOME ][ INDEX ]
朝 --- 明けきらぬ朝
朝
心はまだ眠っているが
朝はめだたぬ奇跡のように
過ぎて行く
空には
小枝がきれいなクロスを描く
死んだひとのことを
忘れない約束のために
窓ガラスの表面には
夜の鳩の体当りした
ダ・ビンチの素描のような
白い輪郭が残っている
初出「断簡風信」67号(1993年) 「鳥たちのための小品集より」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明けきらぬ朝
眠りにおちてゆこうとするとき
夜の森の向こう側にある朝をおもう
朝は数えきれないほど訪れた
けれども たったひとつだけ
まだ明けきらぬ朝が
どこかにあるように思えてならない
うとうととしている森番を
ゆり起こして
たずねてみたいことがある
――森の道しるべに
手違いはなかったのですか?
(詩集「河辺の家」1998年・思潮社刊)より。
[ BACK ][ HOME ][ INDEX ]