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廃駅 --- 駅
廃駅
さびれた廃駅にも
陽はふりそそぎ
待ち続ける人の肩にひろがる
もう この地上で
訪れぬ未来を待つことに
どんな狂気も含まれていない
消えない旅の記憶のように
幾駅かを過ぎ
憂いのように街は流れ
恩寵のようなまどろみのなかでは
夢の車窓をよぎる涙も
いつか陽にかわいてゆくが
はるかな荒野の空に
還るべき夕雲をみつけても
錆びた鉄路を走るものの影はない
初出「断簡風信」2号(1988年)
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駅
冬陽の当たる無人駅で
わたしは 永いあいだ
なかなか来ない列車を待っている
「待つ」ことが
わたしの内部に苛立たしく堆積してゆく
そして ふっと 軽くなる
わたしはもう旅立ったのではないか?
そして どこかの駅に降りたのではないか?
空き缶の浮いている川が流れる
少し煤けた 賑やかな町で
元気に暮らしているのではないか?
ここにいるわたしは
いつか到着する列車を待つだけでいいのだ
ヒトが
百年に満たないこの地上の時間のなかで
美しい列車に乗り合わせることは
稀な出来事にちがいない
それを待つことは赦されているようだ
陽射しがあたたかい
雲が流れている
鳥が遠くで鳴いている
いつの間にか
駅のホームには
老いた駅員がひっそりと現れて
未知の方角を指差している
その空には赤い大きな太陽がまぶしい
ゆっくりと地平線に堕ちてゆきながら
太陽は美しい列車を産み落としていった
(詩集「砂嵐」2002年10月刊より。)
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