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風の梢 --- 小鳥
風の梢
爛れた胃壁の空に
暗い悔恨の渦が残り
風の擦過した丘陵には
木立が惑乱の影を留めている
危機という文字を訊ねていたから
君はまだ安全かもしれない
やがて鳥籠の中で少女が叫び
君はほどなく眠りに落ちる
重たげな明日の角(つの)を抱えて
かって蒼穹を掻き鳴らす
風の梢の高さだけが私の希みであり
敗残と怯懦の唄を風が唄うとき
勝利も中絶もない時の彼方で
君は遙かな冬宮であった
初出「増幅器」終刊号(1980年)
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小鳥
観念の樹に
雄鹿の重い角はいつも激突して
思考の枝が蒼い空を揺すると
一羽のちいさな鳥がおりてきます。
冬宮は遠く
ちいさな鳥には辿りつけない
重い曇天の空をくぐりぬけ
風雨に翼は軋む
鳥かごのなかで叫ぶ少女に
赦しを乞うために
鳥はみずからの翼をたたむ
時間はすでに擦過傷を負っている。
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