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二月 --- 扉
二月
横顔の美しい女の
長い睫毛の先に宿る
一滴の光だけが
流れゆく一日の全てであり
結べぬネクタイの不安と
奇妙に釣り合っている
朝の車両
肌寒いプラットホームで
歳月に追い抜かれ
老い込んだ二月の風が
足元を駆け抜ける
少女の信じている
星占いほどの未来を
くちびるに浮かべ
「意味」と握手する姿勢のまま
デスクの隅に凍りついているのは
あれは 私のシルエット
夏の光を孕んでいる
早春の雲の道を
季節に追いつけぬ夢が
戸惑いながら登っていく
それから 開かれた扉を
硬い鉛筆で描きつけるのだが・・・
初出「VOWEL」1号(1980年)
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扉
その扉を開く前に
五色のキーを準備しなければならない
あなたは誰よりも上手に
それをつくることができるだろう
緑 夏の丘を
赤 夕焼けの空が
黄 春の草原に
黒 黒猫のいる闇だ
蒼 海へ
けれども そのキーを使うのはあなたではない
あなたより夢みることが上手で
あなたよりおろかで
かろやかに未来へ飛べる あの少女だ
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