劇中劇

海埜今日子

なじんだ場所がうらがえった。もういちどめくれるには、いない観
客。と、わたしはどこで聞いたのだろう。客席のまばらにちりばめ
られた、情景たちが行き来する。袖をふれあうひとびとが、そぐわ
ないほど他人を横切る。
ふりかえっては女がとどまる。なくしたものが重なりながら、男の
肩がたわんでいる。ゆるやかなばねがゆらいでいた。振動がふりか
かるという噂もある。かれらはとてもむつみあい、こぼしあっては
余韻をはなれる。
ともに進行する、という舞台があり、くだけては、接合するおわり
があった。わたしはここにいて、つぶさにあなたを語りたくなる。
演じたものが行き来しては、初雪のような感触だった。思い思いに
ぞっとする、さびしい役柄があたたかかだ。
わきに退いたまなざしの刹那、よぎる男が欲しいのだ。むきあう鏡
のような生殖があり、鳴りひびく、とむらいのような陰影があった。
女はすこしだけ帰るだろう、たぶん、ほんとうに。やってきては、
今朝の視線がまぶしくなる。
たそがれをのぞんでいたのは舞台だったか。灰をふくんだ雪だった。
あなたがわたしに食いこんでは、客席のなかに彼をやすらぐ。まぎ
れたありかをさがすこと。進行する結末に、日々がひとつかみはね
ていた。きしんだ椅子がなつかしくなる。
錯誤をまじえた子役がかなでる。さむい人肌がくるしくなり、止ん
だとたんに男がふりむく。彼女はそこにいないのだ。と、つづる手
のうちで願われたもの、たちで埋まった席。ちかしい拍手が悲鳴を
あげた。素どおりする、わたしのそとでさわぐ劇。




(2004/09/29 21:21)


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