ファーザー・ズ・フラワー(父の花)
 

「来てみ、えかろうが」
実家に行くと
父は いつも その場所に私を呼ぶ
八畳間の 真新しい部屋の窓辺
寝ころぶと青空が見えた
手入れの行きとどいた 緑の木々
窓わくを飾って
抜けるような青空から
雲が ゆるりと流れていた

サイホンで入れたコーヒー
これも父の自慢だった
いそいそと いれてくる
私のお気に入りのコーヒーカップに
頼みのしないのに いつものこと
大きな鉢植え 帰り際にくれた
五月に咲く花
鉢の中には たっぷりの苔
花が生き抜くために

衝撃の秋 冬がくる前の
白いベットの部屋 父の居場所になった
スパゲッティを体中に巻きつけて
沈黙の闇に閉じ込められた
わかっているのか いないのか
生と死の狭間を漂う 難破船
物言わぬ父

私は叫ぶ 大声で叫ぶ
深い闇から呼び戻そうと
あたりかまわず 父を呼ぶ
カサカサに乾いた大きな手
しっかりと握る
つなげば命のエナジーが
流れ込むような気がして
私から父のほうへ

病院帰りの 国道二号線
あと一時間で その日は終わる
帰途 大きなトラックが追いかけてくる
そこは一本道でのがれようがない
私は必死で逃げるのだけれど
ますます追いかけてくる
死神のように

一生分の 涙が溢れた日
父は動かぬ石となった
触れると皮膚は温かくて
まだ 眠っているようだった
長い戦いを済ませた戦士のように
父の顔は安らかだった

今年も 父の花が咲く
五月の風に誘われて
鮮やかに 見事に咲く
応援するよ というように
揺れながら
父が 花の中に 生きて
咲く


(2004・11・1、第十九回国民文化祭・ふくおか2004 入選作品)


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