詩のお届け人
 

「井の中の蛙(かわず) 大海を知らず」とは誰もが知っている有名な言葉。では、大海を知ってしまった蛙は、どうするか。これはもう、大海に出て行くしかないだろう。大海を目の前にして、心は出て行きたくてうずうずしている。数年前までの私は、この大海を知らずにいた。で、知ってしまった今の私は、前後も顧みずそこに飛び込んでしまった、といっても過言ではない。
詩のお届け人、というのはどうだろう。たとえば哀しみに沈む人がいたとして、その人の傍らに、陽炎のように現れ、「どうぞ」とにっこりと笑いながら手渡す。泣いていた人は、なんだろう、とそれをおもむろに受け取る。そこには、その人を心から救う「ひとこと」が書かれている。
あるいは、昔来ていた、金魚売りのおじさん、もしくは、ワラビもち売りのおじさん、のように「詩はいりませんかぁ〜」チリンチリンなんて、売りに行って、「はーい、くださーいな」「どれにしますか」「そうですね。どれにしようかな」「これなんていかがですか」とかそんなふうになったなら、理想的だろうな。
誰のポケットの中にも、いつでもとりだせる詩があって、必要に応じて聖書のようにとりだして見る。そんなふうでもいいかもしれない。
夢は広がる。


(2004・10・27、広島県 中国新聞 夕刊掲載)


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