人生の中途
 

あちこちの山々は こぞって色を変える
一枚 緑の衣を脱ぎ捨てて
その下には 赤や黄や茶色のグラデーション
長襦袢も 脱ぎ捨て
白い着物に着替えたら
深い冬眠に入る
やがて来る春のために

いきなり 聞こえてきた声に振り返る
「人のことなんか気にしちゃぁ生きていけんよ。
 なぁ 人のことなんか気にしちゃぁだめ」
響き渡るその声の主
若い母親に 何があったの

聞いている子は 三才と七才くらいの男の子
どうみても 理解しているようには見えない
ふたりの子供は コーヒーを飲む
そんなことより コーヒー飲ませていいの
子供は キョトンとしている

やがて 母親は眠り始める
人生の中途の 揺られる列車の一角で
黒い手袋の中に
雪の結晶が舞い落ちる
浅い眠りが 漂う中で
まだ 寒さは感じないはず

倉敷で下車
チボリ公園にでも行くのだろうか
幼い子ふたりを連れて
やけに重そうな 折りたたみの乳母車
父親のいない 土曜日の午後
あなたの季節は今 いつなの
私はそっと 去ってゆく背中に呟いてみる



【評】
紅葉の秋の1日。作者は列車の中から、窓外の移り行く風景を見ている。しかし、若い母親がまだ幼い男の子に語りかける異様なことばに、生の現実に引き戻される。人生の中途で行き惑っているのは、若い母親だけではないだろう。作者も同じ列車に乗り合わせ、その揺れを共有しているのだ。それが もう少し詩の中に浮き出ていたら、もっと強い印象が生まれたのではないか。幼い二人の子を連れて下車していく、母親の孤独な背中に作者の目は引きつけられている。 
         


<2006・2・27 中国新聞朝刊 選者;北川透>

(※ ご本人の了解のもとに 掲載しています)




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