刺客
 

突然 福笑いの顔が般若に変わる
一歩飛びのいて 身構える
強い信念にガードされて
豹変した怖さにも ひるんだりはしない
柔らかさから 遠ざかる

まさか そんなはずでは

ピンク色は どす黒いアカに変色し
ローズ色に 暗黒のクロがにじむ
優しいほほえみは酸化して
するどい空気が 瞬間を切り裂く
じりじりとした眼差しが 射抜く
聞こえていたバイオリンの高貴な音色は
ガラスをなぞる不快音に変わり
空中を雨のように 針が飛んでくる
お伽話は なりをひそめ
負の断片がパラパラと 頭上から剥がれ落ちる

そんなはずでは なかったはずだ

湖は沼地へと変化してゆく
白い皮膚は 土色にゆがみ
求めてもいないのに 万有引力のように
引き寄せられて 落下して止められない
本来の自分を喪失する
襲ってくる 狼の群れ
追い詰められて木の上
数十匹の遠吠え
戦うしかない 逃げないで
長い口を両の手で血に染め
けものの顔を引き裂く

相手が鬼なら わたしも鬼にでもなる




【評】北川透
今まで優しかった人が、突然 怖い刺客に豹変する。
「般若」は能では角の生えた鬼女の面だから、相手は
女性なのだろう。片方が鬼になれば、もう一方も負け
じと鬼になる。ふたりを取り囲んでいる暖かい色は陰
惨な色に、高貴な音色も不快音に変わる。
空中を雨のように針が飛んだり、湖が沼に変わったり、
世界は見慣れた姿を失い、ふたりもけもの同士として
戦わざるをえない。比喩がすさまじいが、どこか芝居
じみた滑稽さも出ていて、表現力は確か である。

(※ ご本人の了解のもとに 掲載しています)




<2005・7・25  広島県 中国新聞朝刊 掲載
    選者; 北川透 >




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