鞆・鴎風亭-にて
 

潮風色した 木製のデッキの向こう側
平らな海に
春は そこまで来ていた

西から東へと
たゆたゆ と流れる さざ波の上
鴎が サッと下降する

海と空の境目には
白い 中世の都市のような
街並み らしく
それは蜃気楼の製鉄所(昔の古巣

春霞の中に
海をはさんだ向かいの大陸が
おぼろんでいる

私も静かに おぼろんで
絵画の一部となって
しだいに 溶けてゆく

潮騒の流れから ごつごつと浮かび出た
こじんまりとした岩場のすそから
とれたての湧き水のような
透明な波がひきりなしに
生まれ
遥かな向こう
洋船が 旅支度のため
停泊していた(いつの日にか 地の果てへ

同じ鴎が また飛んだ
潮風に吹かれて 海面すれすれに
急上昇して 空へ
そらへ(私も鴎になりたい

音のない 硝子張りのテラスで
私は やってくる春の予感を
ガラスのこちら側から 柔らかく
迎え入れる準備 をしていた



(2005・1・10、輪 第12号 所収)


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