10年前に出した詩集の一編をほめられた
うれしかったが、さほど心は躍らなかった
10年前は太古の昔だ
おれの中を***ザウルスが闊歩していた
ギャオーと火を吐きながら
おれの恐竜はどうしているだろう
いまおれの中にビルマホシガメが住んでいて
手のひらの上でレタスをパリパリ食んでいる
大きさの問題じゃないって言ってもね
10年前をほめられてうれしかった
でもそれよりかきのう走り書きしたのを読んで
いまのおれとハイタッチしてくれたら
もっとずっとうれしかった
実感を100%味わえるのはいつも今
ギャオーと鳴かない陸ガメが
手のひらの上でそう言った
★
浜辺に行った
貝がらをひろった
貝がらはからっぽ
だけどとおい生き物のにおい
浜辺に行った
クルミをひろった
クルミはかたくでこぼこで
はるかとおい星の味
浜辺に行った
プラスチックの残骸
さわりもしなかった
人間のくさい息の形
★
浜辺には
半分砂に埋もれたみどりのビンがなければならなかった
ラベルも何もないビンでなければならなかった
その中には紙が入ってなければならなかった
紙には地図が書いてなければならなかった
その地図はどこかわからない地図でなければならなかった
見つけたヤツは地図を信じなければならなかった
また、自分を信じなければならなかった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、
夢は夢のまま終わらなければならなかった。
★
浜辺に行った
貝がらをひろった
貝がらは空っぽ
だけどとおい生き物のにおい
浜辺に行った
クルミをひろった
クルミはかたくでこぼこで
はるかとおい星の味
浜辺に行った
プラスチックの残骸
さわらなかった
人類の欲望のなれの果て
★
10年前に出した詩集の一編をほめられた
うれしかったがさほど心は躍らなかった
10年前は太古の時代だ
おれの中を***ザウルスが闊歩していた
ギャオーと火を吐きながら
おれの恐竜はどうしているだろう
今、おれの中にビルマホシガメがいて
手のひらの上でレタスをパリパリ食んでいる
大きさの問題じゃないって言ってもね
10年前をほめられてうれしかった
でもそれよりかきのう走り書きした一編を読んで
今のおれとハイタッチしてくれたら
もっとずっとうれしかった
実感を100%味わえるのはいつも今
ギャオーと鳴かないリクガメが真顔でそう言う
★
浜辺には
半分砂に埋もれた緑のビンがなければならなかった
そのビンはラベルのないビンでなければならなかった
ビンの中には紙が入ってなければならなかった
その紙には古い地図が書いてなければならなかった
それはどこかわからない地図でなければならなかった
彼はその地図を信じなければならなかった
また彼は自分を信じなければならなかった
だから彼は迷うことなく旅に出なければならなかった
そしていろいろな経験をしなければならなかった
そして
若き日の夢は夢で終わらなければならなかった