055−最終稿
5月の
いい天気の10時半には
読みかけの文庫本を指にはさみ
レースカーテン越しに差し込む光で
殺人犯を追いかける
5月の光は右のページを斜めに照らし
左のページに目が移ると
影から文字が浮き立つように
右手の指に持ち替える
窓の外は一面光の眩しさ
この部屋は光とその影が
貝やお面や掛け時計などの実在を見せている
5月の朝10時半を過ぎて
犯人は白日の眩しさを嫌い
幾重にも重なったページの闇に潜んでいるのか
それとも
輪郭の似たおれの影の内に隠れて
次の犠牲者を夢見ているか
084‐1
ああ と叫びたい朝がある
ああ と息を吐きたい夜もある
ああ なんてはずかしい
おれは ああ なんて書かないぞと思ってきたけど
ああ というしかないときもあるかもしれない
ヒトがまだ毛皮のような皮膚を持っていたころ
太陽がゆっくり欠けていくとき ああ
あれからずっと獲物がなくて腹ペコなとき ああ
同じような小さなものが女の足の間から出てきたとき ああ
川の水が暴れて何人かが動かなくなったとき ああ
ああ が口からこぼれたのではないだろうか
ことばになる前の
感じたことを伝えるものとして
084‐2
ああ と叫びたい朝がある
ああ と息を吐きたい夜もある
ああ なんてはずかしい
おれは ああ なんて書かないぞと思ってきたけど
ああ というしかないときもあるかもしれない
ヒトがまだ毛皮のような皮膚を持っていたころ
太陽がゆっくり欠けていくとき ああ
あれからずっと獲物がなくて腹ペコなとき ああ
同じような小さなものが女の足の間から出てきたとき ああ
川の水が暴れて何人かが動かなくなったとき ああ
ああ が口からこぼれたのではないだろうか
ことばになる前の
おさえられない
つきあげる何かを伝えるための