036-2
お彼岸の中日、墓参りに行った。
風もないのに蝋燭が消えた。
ガレージの雨樋が外れていた。
梯子を登り、雨樋を二本つなぎ、ビニールテープを巻いた。
足元は木の棒一本に支えられていた。
古い友達が書いた論文「非漢字圏に対する日本語学習法」をネットで読んだ。
知ってるような、知らないような言葉がいくつかあった。
…ピンとこない。
…ここにいて、ここにいない。
キャップをひねってボトルのお茶を飲んだ。
飲んでから何日か前のお茶だと気づいた。
いや、飲む前から気づいていたようだ。
どこにいる
何をしている
なにより
おまえはだれだ
099‐2
できれば
人前であくびをするような
「おれ」と言いたくないのだけど
「わたし」では血が流れていない標本みたいだし
「ぼく」には、その後に「おしっこ」と言いかねない甘さがある
できれば
品の感じられない「おれ」とは
自分を呼びたくないのだけれど
今のニホンゴにはそれぐらいしかないから
(英語の「I」はどうなんだ。中には画一的な「I」を使いたくないひともいるんじゃないか。
(中国語の「我」にしてみたって、漢語のこの言葉に抵抗を覚えるひとも、あるいは。
朝、顔を洗うついでに見る鏡の中の自分に
「わたし、ぼく、おれ」をあてはめてみる
窓から流れ込む新鮮な土のにおいに
「おれ」を選び
一日が始まる
<私道で>
2メートルの距離で
目が合った
あの猫
すれ違った50年前と
同じ目
柳の木は伸びた
猫は
僕の目の中に
50年前と変わらぬものを
みたか